目次
1.初めて働くあなたのための賃金支払いの5原則
2.賃金支払いの例外とその理解
3.賃金支払いをスムーズにするための実務ガイド
4.賃金支払いに関するよくあるトラブルとその対策
5.給与と税金の天引きまとめ(正社員・アルバイト・短期バイト共通)
6.賃金支払いの原則を理解するために
7.最後に・・・
1.初めて働くあなたのための賃金支払いの5原則

1.1 賃金支払いの原則とは?基本を押さえよう
社会人として働き始めると、最も気になるのが「自分の給料がどのように支払われるのか?」という点です。実は、賃金の支払いには法律で定められた5つの原則があります。これは労働基準法第24条を中心とする規定で、労働者を守るために作られた大切なルールです。その5つとは以下の通りです。
・通貨払いの原則
・直接払いの原則
・全額払いの原則
・毎月1回以上払いの原則
・一定期日払いの原則
これらを理解することで、給与に関する不安を解消できるだけでなく「もし不当な支払いがあった場合に自分の権利を主張する」ことができます。
1.2 アルバイトでも知っておくべき全額払いの原則
「全額払いの原則」とは、会社が労働者に対して賃金を支払うときに、勝手に天引きや控除をしてはいけないというルールです。例えば、制服代や備品代を理由に給料から差し引くことは、原則として法律違反になります。
ただし、例外として「法令に基づく控除(所得税・住民税・社会保険料など) 」や「労使協定に基づく控除(社宅費・労働組合費など) 」は認められています。アルバイトの場合でも同じです。もし給与明細を見て、よく分からない控除があった場合は、必ず会社に確認しましょう。
1.3 1分単位の給与計算についての理解
「自分の給料はどのように計算されるのか?」という疑問を持つ人も多いでしょう。労働基準法では「労働した時間に応じて賃金を支払う」ことが基本です。そのため、実際には1分単位で労働時間を記録し、それに基づいて支払うのが原則です。
しかし、実務上は15分単位や30分単位で丸めて計算する会社もあります。この場合、労働者に不利になるような切り捨ては違法とされる可能性があります。働き始めたら、自分の勤務先がどのように時間管理しているかをきちんと確認することが大切です。
1.4 法令で求められる給与の支払い方法・期日
賃金は原則として「通貨」で支払う必要があります。つまり、現金または銀行振込(本人同意あり)での支払いです。商品券や現物支給だけで給料を渡すのは違法となります。
また、「毎月1回以上」「一定の期日」に支払わなければなりません。例えば「毎月25日払い」や「毎月末日払い」といった形です。もし会社が支払いを遅延した場合、労働基準法違反となり、場合によっては遅延利息の請求も可能です。
1.5 罰則を避けるための注意点
会社がこの原則を守らなかった場合、罰則が科されることがあります。例えば、労働基準法第120条では「30万円以下の罰金」が規定されています。新社会人としては「自分の給料は正しく支払われているのか?」を確認し、少しでも不安があれば労働基準監督署に相談できることを覚えておきましょう。
2.賃金支払いの例外とその理解

2.1 例外規定を知ることの重要性
法律には必ず「例外」があります。賃金支払いの原則にも、労使の合意や特殊な事情に基づく例外が存在します。この例外を正しく理解していないと、「違法では?」と誤解してしまうことがあります。したがって、労働者としては原則と同じくらい例外規定も知っておく必要があります。
2.2 直接払いの原則と相殺の理解
「直接払いの原則」とは、給料は必ず労働者本人に支払わなければならないというルールです。しかし、労働者が同意すれば、家族の口座などに振り込むことも認められています。また、賃金の一部を会社の借金返済に充てる「相殺」も原則は禁止されていますが、労働者の自由な同意がある場合には一部認められるケースもあります。
2.3 特殊なケースにおける賃金支払いのルール
例えば、臨時的な出張手当や成果に応じた歩合給などは、通常の毎月払いの枠に当てはまらないことがあります。これらについても労使協定や就業規則で定められていれば、例外的に認められます。
大切なのは「ルールが明文化されているかどうか?」です。
2.4 労働基準法における特別条項についての解説
労働基準法では、労使協定や労働者の同意を前提に、一定の範囲で原則を修正することができます。これを「特別条項」と呼びます。例えば、ボーナスや成果給は「毎月払いの原則」の例外として位置づけられています。これを知っておけば、給与体系を理解しやすくなります。
📌 例外(2021年以降の動き)
ただし、最近はキャッシュレス決済の普及を背景に、一部の電子マネーや口座振込(銀行以外の資金移動業者を利用する場合)も認められるよう法改正が進みました。
- 2023年4月から「資金移動業者の口座」への賃金支払いが可能に
(PayPay銀行や楽天銀行などのように登録された事業者の口座)。- ただし、労使協定の締結や労働者の同意が必要。
- 暗号資産(ビットコイン等)は資金決済法で「通貨」ではなく「資産」と位置付けられており、
賃金支払いには使えません。
✅ まとめると
- 【OK】 日本円の現金、銀行口座振込、登録済みの資金移動業者の口座
- 【NG】 外貨、商品券、電子マネー(チャージ型)、ビットコインなどの暗号資産
💡よくある質問:会社の食堂を利用したら給与から天引きされたけど違法?
実は、社員食堂の利用料を給与から差し引くこと自体は 一定の条件を満たせば合法 です。具体的には、以下のケースであれば認められます。
- 所得税や社会保険料など、法令で定められた控除
- 会社と労働者代表との間で結ばれた「賃金控除に関する協定(労基法24条第1項但書協定)」に基づく控除(例:社員食堂の利用料、社宅費、組合費など)
もし協定がなく会社が一方的に天引きしている場合は違法の可能性が高く、労基署の是正勧告対象にもなり得ます。したがって、自分の会社にそのような協定があるかどうかを確認することが大切です。
3.賃金支払いをスムーズにするための実務ガイド

3.1 給与計算の基礎知識
給与計算は単純そうに見えて、実は非常に複雑です。基本給だけでなく、残業代、深夜手当、休日出勤手当、通勤手当など、さまざまな要素を正しく計算しなければなりません。特に残業代の計算は法律で細かく定められており、割増率を間違えると違法となります。
3.2 支払日のルールと企業の義務
企業は「毎月1回以上」「一定期日」に支払う義務があります。つまり、「月末締め翌月払い」といったルールを定め、それを守らなければなりません。支払いが遅れたり、勝手に日程を変えたりすることはできません。
3.3 トラブルを避けるためのポイント
賃金に関するトラブルを避けるためには、次の3点が大切です。
- 雇用契約書や労働条件通知書を必ず確認する
- タイムカードや勤怠記録を自分でも控えておく
- 給与明細をきちんとチェックする
3.4 労働条件の確認とその重要性
新社会人やアルバイトが陥りやすいのは「よく分からないまま働き始めてしまう」ことです。労働条件通知書には、勤務時間・休憩・休日・賃金・支払日などが明記されているため、必ず確認することが重要です。これを怠ると、後から「話が違う」とトラブルになる可能性があります。
4.賃金支払いに関するよくあるトラブルとその対策

4.1 解雇に伴う賃金支払いのトラブル
退職や解雇の際、会社が「給料は次の月末に払う」と対応するケースがありますが、これは違法です。労働基準法第23条では「退職時には7日以内に未払い賃金を支払う」ことが義務付けられています。もし支払いが遅れた場合は、労働基準監督署に相談しましょう。
※退職に伴う有給消化を行った際、退職日は有給消化が終わった最終日が退職日となりますので有給消化中は上記の7日間は含まれません。
4.2 休業と給与の関係について
会社の都合で休業になった場合、労働者には「休業手当」が支払われます。その額は平均賃金の60%以上です。新型コロナ禍の際にも注目された制度であり、労働者の生活を守る大切な仕組みです。
4.3 残業代の計算ミスを防ぐ方法
残業代は「1日8時間・週40時間」を超えた分に対して支払われます。割増率は通常25%、深夜(22時~5時)は25%、法定休日は35%と細かく決められています。これを正しく理解しておくことで、自分の残業代が正しく支払われているかを確認できます。
さらに、近年の法改正により、時間外労働については「代替休暇(代休制度)」を用いて相殺することが認められるようになりました。これは、労使協定や就業規則で定めることを前提に、割増賃金の一部または全部を休暇として付与する仕組みです。例えば、時間外労働が一定時間を超えた場合、その分を有給の休暇として消化することで、労働者の負担を軽減することができます。ただし、この制度を導入するには明確なルールが必要であり、労働者に不利益にならない形で運用されることが求められます。残業代が代休で処理されている場合は、その内容を必ず確認し、自分にとって不利益にならないかをチェックすることが大切です。
4.4 労使協定の締結とその意義
36協定(サブロク協定)をはじめとする労使協定は、時間外労働や休日労働を行う際に必須です。これが締結されていない場合、会社は残業を命じることができません。給与の正当性を確認するためにも、労使協定の有無を知っておくことは重要です。
5. 給与と税金の天引きまとめ(正社員・アルバイト・短期バイト共通)
5.1 所得税(源泉徴収)
- 会社は、給与を支払うときに所得税を天引きする義務があります(雇用期間に関係なし)。
- 例外として、日雇いや短期バイトでは「日額表」「源泉徴収税額表(丙欄など)」に基づいて計算。
- 1日や短期の収入が少額の場合、源泉徴収がゼロになるケースもある。
- 会社が一切天引きせず、国に納めてもいない場合 → 違法の可能性大。
5.2 住民税
- 住民税は「前年の所得」に基づいて翌年に課税される。
- 初めてバイトを始めた年は、前年収入がないため基本的に住民税はかからない。
- 通常は「特別徴収方式」により会社が給与から天引きする。
- 一部例外(小規模事業者や短期雇用など)では「普通徴収(自分で納付)」になることもある。
- 会社が特別徴収を故意に行わない場合 → 自治体から是正指導の対象。
5.3 短期バイトの場合
- 所得税 → 必ず「源泉徴収の対象」。ただし収入が少ない場合は結果的に天引きゼロになることもある。
- 住民税 → 翌年の課税対象なので、短期バイトだけで翌年の収入が少ない場合は課税されないことも多い。
5.4 違法になるケース
- 所得税の源泉徴収を一切せず、会社が国に納めていない場合。
- 住民税の特別徴収を行う義務があるのに、会社が勝手に普通徴収にしている場合。
5.5 👉 ここでのPOINT!
- 所得税は雇用形態に関わらず原則「会社が天引き」しなければならない。
- 住民税は前年の収入に応じて翌年からかかる。短期バイトでも対象になる可能性はあるが、少額なら非課税。
- 「短期だから天引きしなくていい」という説明は誤解。正しくは「収入額によって結果的に天引きが発生しないことがある」ということ。
👉 アルバイト=控除なしという考えは誤解です。
バイトであっても法律に基づいた税金や社会保険料の控除は行われ、条件によっては控除額がゼロになることもある、というのが正しい理解です。また、「バイトなら税金を控除されない、給与控除がされるのは間違っている」という考えは誤りであり、雇用形態に関わらず一定の条件下では必ず控除が行われます。
6.賃金支払いの原則を理解するために

6.1 今後のキャリアに役立つ知識
賃金支払いの5原則を理解しておくことは、単に「給料をもらう」ためだけではありません。正しい知識を持つことで、不当な扱いを受けたときに自分を守ることができます。これは社会人としての基盤を作るうえでとても重要です。
6.2 労働法の理解を深めるためのリソース
もしさらに深く学びたいのであれば、厚生労働省の公式サイトや、労働基準監督署が発行しているパンフレットを読むと良いでしょう。また、働くうえで疑問を感じたときは、労働相談窓口に問い合わせることもできます。
7.最後に・・・
新社会人や就活生にとって「賃金支払いの5原則」を理解することは、これからのキャリアを守る第一歩です。労働法は難しいように思えるかもしれませんが、基本を押さえれば決して複雑ではありません。あなたが安心して働き、自分の努力に見合った賃金をしっかり受け取れるよう、この知識を役立ててください。そしてもし分からないことや不安がある場合は、一人で悩まず専門機関に相談する勇気を持ちましょう。それが、長い社会人生活を健全に歩むための大切な習慣となります。
株式会社S.I.Dでは初めて働く皆さんのサポートを行っています。
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皆さんが気持ちよく働けることが何よりの社会貢献だと想って。